犬の歯石取りについて|タイミング・治療・費用を歯科認定医が解説
愛犬の口元を見たとき、「歯が黄色くなっている」「茶色い汚れがついている」と気づいたことはありませんか?
また、愛犬と顔を近づけた際に口臭が気になったり、動物病院の診察で「犬の歯に歯石が溜まっていますね」と指摘されたりして、不安を抱えている飼い主様も多いことでしょう。
最近では、SNSやインターネットの広告で犬の歯石取りに関する情報を目にする機会も増え、
「うちの犬も早く歯石を取ったほうがいいのだろうか」
「無麻酔での歯石取りというのがあるらしいけれど安全なのだろうか」
と迷われている方もいらっしゃるかもしれません。中には、すでに愛犬の口から出血があったり、顔が腫れてきたりと、症状が悪化しているケースに直面して慌てて情報を探している方もいらっしゃるでしょう。
犬の歯に付着した歯石は、単なる見た目の問題ではありません。放置すれば深刻な病気を引き起こす「最大の引き金(足場)」となります。
この記事では、犬の歯石取りを行うべきタイミング、放置するリスク、動物病院での安全な歯石取りの流れ、費用、そして当院における専門的な取り組みについて詳しく解説します。


犬の歯石取りはいつやるべき?チェックリストで確認
愛犬の歯石取りをいつ行うべきか、明確な基準がわからなくて悩む方は少なくありません。
犬の口内環境は人間とは異なり、歯垢が歯石に変化するスピードが非常に速いのが特徴です。
以下の項目に1つでも当てはまる場合、すでに犬の歯に歯石が蓄積し、歯周病が進行している可能性があります。愛犬の様子をチェックリストで確認してみましょう。
- ✅口のにおいが気になる:犬の口臭は、歯垢(プラーク)に繁殖した細菌が発するガスが原因であることが多いです。生臭い、あるいはドブのような強い臭いがする場合は注意が必要です。
- ✅歯が黄色~茶色に変色している:本来真っ白であるはずの犬の歯が変色している場合、それは歯垢が石灰化して歯石となっている証拠です。
- ✅歯ぐきが赤い、または腫れている:細菌によって歯肉に炎症が起きているサインです。健康な犬の歯ぐきは薄いピンク色ですが、赤く腫れ上がっている場合は歯周病の初期段階と言えます。
- ✅よだれが増えた:口腔内の痛みや違和感、炎症によって唾液の分泌量が増加することがあります。よだれに血が混じっている場合はさらに深刻です。
- ✅硬いものを噛みづらそうにしている:ドライフードや硬いおやつを食べるのに時間がかかったり、片側の歯だけで噛もうとしたり、あるいは食べるのを途中でやめてしまったりする場合は、歯周病で歯が揺れていたり、歯肉の炎症の痛みが生じている可能性があります。
これらのサインを見逃さず、少しでも異常を感じたら、早めに動物病院で犬の歯の状態を確認してもらい、適切なタイミングで歯石取りの処置を行うことが重要です。
歯石取りを行わないとどうなるか(歯石の正体と真のリスク)
「たかが歯の汚れ」と犬の歯石を軽視してはいけません。
そもそも歯石とは、歯の表面に蓄積した細菌バイオフィルム(歯垢・プラーク)が、唾液や歯肉溝浸出液に含まれるカルシウムやリン酸と結びついて石灰化し、固まったものです。顕微鏡で見ると、歯石の内部には死んだ細菌が閉じ込められており、とくに目に見える歯肉縁上の歯石は、まるで木の年輪を刻むような「層状構造」を示しながら時間をかけて成長していきます。
ここで歯科治療において重要な事実があります。
実は、「歯石そのものが歯周病の直接の原因ではない」ということです。研究により、抗菌処理をして細菌を除去した無菌状態の歯石であれば、直接的な炎症を引き起こさず、その上に歯肉が引っ付くことすら分かっています。
では、なぜ犬の歯石を取らなければならないのでしょうか?
それは、歯石が「プラークリテンションファクター(歯垢の停滞因子)」として働くからです。歯石の表面は非常にザラザラしており、新たな生きた細菌バイオフィルム(歯垢)が定着するための格好の足場となってしまいます。
- 歯周病の進行と外歯瘻(がいしろう)と内歯瘻(ないしろう):犬の歯周病の真の原因は、歯石という足場を得て増殖した「細菌(バイオフィルム)」です。細菌の塊を原因として、そこに生体の免疫応答やその他の局所的要因が複雑に絡み合って発症・進行します。症状が悪化すると、目の下や顎の下の皮膚に穴が開いて膿が出る「外歯瘻」、または歯茎の横に穴が開いて膿が出る「内歯瘻」といった痛みを伴う深刻な状態に陥ることもあります。
- 歯が抜ける:進行した炎症により歯槽骨(歯を支える骨)が溶けてしまうと、歯を支えきれなくなり、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
- 全身疾患への影響:さらに進行すると、歯周ポケットで増殖した細菌が血流に乗って全身へ回り、心臓や腎臓に影響を及ぼすこともあります。「口の問題」ではなく「全身の健康問題」につながる可能性があるのです。

歯石取りの流れ(無麻酔の危険性)
動物病院で行う犬の歯石取りは、一般的に以下の流れで行います。
- 1. 事前診察と術前検査
- 2. 麻酔をかけて口腔内検査
- 3. 歯科処置(マイクロスコープを用いて超音波スケーラーやキュレットで歯冠と歯根に付着した歯石を除去し、歯面を綺麗にします)
- 4. 1~2週間後に口腔をチェック
- 5. 3~6ヶ月ごとに定期検診
麻酔を使用する理由は、安全かつ正確に歯石取りの処置を行うためです。
一方で「無麻酔歯石取り」を検討される犬の飼い主様もいらっしゃいますが、以下の点に注意が必要です。
- 歯の表面しか処置できない:外側の見える部分の歯石しか取れません。
- 歯周ポケット(見えない部分)の歯石は取れない:歯周病の最前線である歯茎の内側の歯石は残ったままになります。
- 痛みやストレスがかかる:恐怖と痛みで犬に多大なストレスを与える可能性があります。
- 誤って傷つけるリスクがある:動いてしまう犬の口内を鋭利な器具で傷つける恐れがあります。
無麻酔での歯石取りは根本的な解決にならず、犬にとって危険が伴うため推奨していません。
歯科処置により歯周病が治れば、歯肉の腫れが引くはずですが、無麻酔の歯石取りをしている犬の口は、歯石は少ないのですが、歯肉炎が見られるケースがたくさんあります。
費用
犬の歯石取りの費用は、犬の状態や処置内容によって異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。
- 軽度:12~15万円(歯石の付着が少なく、抜歯がない場合)
- 中程度:15~25万円(複数の歯に深い歯周ポケットが認められ、抜歯や歯周ポケットの歯石除去が必要な場合)
- 重度:25~35万円(中程度よりも多数の歯に深い歯周ポケットが認められ、抜歯や歯周ポケットの歯石除去が必要な場合)
口腔内の健康のためにも、歯石が重度になる前に早めの処置をおすすめします。
当院の設備と特徴(マイクロスコープ)
当院では、犬の歯石取りにおいてマイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を用いた「高度な診断と治療」を行っています。
「顕微鏡を使うと、何がそんなに違うの?」と思われるかもしれません。
マイクロスコープを使う最大の理由は、患部が「大きく見える」からだけではありません。治療の成功率を高め、傷の治りを早くし、何より愛犬にとって安全な治療を行うために、非常に大きなメリットがあるのです。
1. 術後の痛みや腫れを抑え、治りを早くする
歯周組織再生など、細かな作業が必要な手術において、マイクロスコープは欠かせません。
肉眼では見えにくい極細の糸を使って、組織へのダメージを最小限に抑えながら精密に縫合することができます。これにより、術後の愛犬の痛みや腫れを極力減らし、綺麗な治り方(一次治癒)を促進して、回復スピードを早めることができます。
2. 治療の失敗を防ぎ、確実な成果を
高度な歯周組織再生治療を行う際、マイクロスコープを使うことで、歯茎の端と端をぴったりと隙間なく縫い合わせることができます。これにより、治療の失敗リスクを極限まで減らし、安全・確実な治療を提供できます。
3. 「手の感覚」ではなく、「しっかり見て」確実に取り除く
通常の歯石取りは、歯茎に隠れた部分を器具の手の感触を頼りに手探りで行うことが多くなりがちです。
しかし、マイクロスコープを使えば、奥歯の複雑な形をした部分(根分岐部)などに隠れた、わずかな歯石の塊も直接目で見て取り除くことができます。見えないからといって必要以上に歯の根元を削って傷つけてしまうことを防ぎ、ツルツルで清潔な状態を安全に作り出すことができます。
また、ただ歯石を取ったり歯を抜いたりするだけでなく、「歯をできるだけ残す保存治療」を重視した歯科診療も行っています。愛犬の歯石にお悩みの方は、当院の高度な設備による歯石取りをご検討ください。
よくある質問(Q&A)
Q. 高齢犬でも歯石取りはできますか?
A. 高齢犬でも事前の検査で健康状態を確認し、適切な麻酔管理を行えば歯石取りは可能です。歯石による病気のリスクを減らすことが重要です。
Q. 病気の治療中ですが、歯石取りは大丈夫ですか?
A. 持病がある犬の場合、より慎重な管理のもとで歯石取りを行います。かかりつけ医と相談しながら進めます。
Q. 麻酔の安全性は?
A. 犬への麻酔のリスクを最小限にするため、最新の機器で心拍や呼吸をモニタリングしながら安全に歯石取りの処置を行います。
Q. 歯石取りの後、再発リスクはありますか?
A. 歯石取りを行っても、ご自宅でのケアを怠ると犬の歯石は必ず再発します。歯石取り後の歯磨き指導も行っています。
まとめ
犬の歯石を放置すると、細菌の温床となって歯周病が進行し、歯が抜け落ちるだけではなく、顎の骨が溶けて口周りの骨折リスクが高まります。
また、歯石を足場にして増殖した細菌によって、歯だけではなく全身の病気リスクが高まります。愛犬の口の臭いや歯の汚れが気になったら、早めの歯石取りの処置を心がけましょう。
犬の歯石取りに関するご相談は、ぜひ当院にお任せください。
監修:品川どうぶつ歯科 獣医師 小原
保有資格:ISVPS小動物歯科口腔外科認定医

